今回は前回の続きとして、青春18きっぷで日本縦断の旅をしたときの旅行記をお届けしたい。今回は肥薩おれんじ鉄道(出水~八代)、そしてそのあと乗った三角線の様子について書いていく。
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はじめに:今回の旅行について
今回の旅行の趣旨は、青春18きっぷ1枚を1人で使い、5日間かけて普通列車だけで日本を縦断、つまり鹿児島県南端の枕崎から北海道北端の稚内まで行くというもの。地図に書き起こすと、1日目~5日目でそれぞれ次のようなルートをとることになる。
肥薩おれんじ鉄道(出水~八代)
13分の停車時間を経て、列車は出水を発車した。ここからも線路は北上を続け、県境を越えて熊本県へと入っていくことになる。この旅行で通過する2つ目の県だ。
袋に近づいてくると、車窓にはふたたび海が見えてくる。今度は外海ではなく、内海の水俣湾だ。言われてみれば、たしかにこの天候なのに波はおだやかだった。
水俣湾。半世紀以上前の公害により、良くない意味で有名になりすぎてしまった湾。被害者の患者認定がなかなか進まないなど今なお課題は残っているものの、汚泥の除去作業は1990年までに完了し、水質についてはカタクチイワシなどの漁や、スキューバダイビングができるまでに回復しているようだ。
水俣と新水俣の間では桜が咲きかけていた。この日は3月の23日だったのだが、さすが熊本あたりでは春の訪れも早いんだなあと実感する。ちなみにこの時九州では桜が咲いていたが、数日後に到達した東北、北海道ではまだ普通に雪が降っていた。桜と雪を同時に楽しむ旅、というのも、思い返すとなかなか貴重な体験だったなあと思う。
新幹線との接続駅である新水俣を過ぎると、まもなく新幹線の高架と立体交差する。周りの風景からもわかるようにこのあたりはけっこう急峻な山の景色なのだが、相変わらず海からはかなり近いところを走っている。険しい地形の中を進んでいることがよくわかる。
そして次の津奈木でも、その先の湯浦でもまた新幹線と交差する。このあたりは起伏の激しい地形に沿ってかなりうねうねと進んでいく線形なので、山をトンネルで貫いてまっすぐ進む新幹線とは複数回交わることになるわけだ。海から遥か遠く離れた山間部を走っていると言われても信じてしまいそうな車窓だが、これでも海からは最大でも5kmくらいしか離れていないというんだからすごい。
湯浦(ゆのうら)を過ぎると湯浦川という川と一瞬だけ併走する。湯浦川が海に流れ込む様子も見ることができる。
「湯の浦」という地名からもわかるように、このあたりは湯浦温泉という温泉地となっている。開湯から1300年以上もの歴史がある温泉で、薩摩街道の宿場町でもあったようだ。本当なら途中下車でもしてゆっくり観光したいところなのだが、後ろ髪を引かれる思いで今回は通過。
佐敷には昔ながらの木像駅舎と、国鉄フォントの駅名標が残っていた。ここは肥薩おれんじ鉄道全体でも3番目に乗降客数が多い、比較的大きな駅のようだ。今回の列車でもここまでで最大の乗車があり、10人ほどが列車に乗り込んできた。ここまでのお客さんは高齢の方が中心だったのだが、ここでは若い人もけっこう乗ってきたのが印象的だった。
海浦あたりまで来るとなんだかもう一周まわって海の車窓もありがたみがなくなってくるが、ここは海に開けた集落を見下ろすような位置に駅が置かれている。山が海に落ち込み、その隙間を塗って町ができている。なんとも趣深い風景を、贅沢にも列車から見下ろすことができるのだ。今回は時間の都合でできないけれど、ホームに降り立ったら気持ちいいだろうなぁ…とも思う。天候も相まって、ちょっと山陰本線みのある風景にも見える気がする。
たのうら御立岬公園の付近では、線路から驚くほど近い位置に海が現れる。視界を遮るものは何も無く、この旅全体で見ても最上級のオーシャンビューだった。肥薩おれんじ鉄道の旅も終盤とあって、正直もう海の車窓はお腹いっぱいになってきているのだが、冷静に考えてそんな贅沢な悩みがあるだろうかいやない(反語)。
日奈久温泉は木造駅舎と桜の駅。たぶんもう少し時期が遅くてもう少し晴れてたら桃源郷みたいな景色になってたんだろうなあ……と思う。日奈久温泉を発車し、最後に球磨川を渡るとまもなく終点、八代。12:57の到着だった。
八代駅とファミマの鶏そぼろ弁当と鹿児島本線(八代~宇土)
八代からは、鹿児島本線の普通列車に乗り換えて宇土まで行く。次の乗り継ぎ列車まで8分しかないのだが、さすがにそろそろお腹がすいたのでコンビニとかないかな…と思ったら、JRの八代駅にはファミマが併設されていた。
というわけで、地域限定だという鶏そぼろ弁当を購入してきた。天草大王など有名な地鶏を有し、畜産の出荷額全国7位の熊本県。ということはファミマのこれも、まあご当地グルメだと言えなくもないと思う知らんけど
ここから乗る列車は、815系電車による区間快速・鳥栖行き。今朝鹿児島中央から乗った817系の、1世代ぶん先輩にあたる車両だ。車内はそれほどは混んでいなかったため、まあ大丈夫だろうと判断して車内で先ほどのお弁当を食べた。九州らしく高菜まで入っていて、これがなかなかおいしかった。
ただ目の前に座っていた男が、不潔な身なりでやたら鼻をズビズビさせていて(しかも悲しいかな、たぶんこの人も同業者(=乗り鉄))、それが気になっていまいち味に集中できなかったのはもったいなかった。鉄オタ同士なら確実に感じ取れる隠しきれない鉄オタ臭が、全身から漂っているのを見てとても虚しい気持ちになった。鶏のそぼろをかきこみながら、自分はああはならないようにしなきゃ…と誓ったのだった。
ちなみに、815系で特徴的なのは、ロングシートの端の部分にヘッドレストがついていること。今回はこの区画に座ったのだが、ロングシートにしてはなかなか座り心地がよく、やっぱ九州の普通列車って贅沢だなぁ…とつくづく思ったのだった。
宇土駅と「うと餅」
先ほどの区間快速は佐賀県の鳥栖まで行くものだったのだが、今回は宇土で途中下車した。この駅から分岐するローカル線の三角線に乗れそうだったので、ついでに乗っておこうという魂胆だ。
駅舎は2009年に建てられたきれいなもので、九州新幹線の高架のすぐ脇に設けられている。1日に1,500人以上が利用する比較的大きな駅で、業務委託ながら有人駅となっている(ただしこのときは駅員さんはいなかった)。
駅の目の前にはデイリーヤマザキがある……のだが、なにやら看板に「うと餅」なる文字が見える。調べてみるとこれはどうも宇土の銘菓らしく、この建物の裏の工場で作ったものをコンビニ内で販売しているということのようだ。
せっかくなので1つ買ってみた。小さなあんこ餅が10個入って、お値段は324円(税込)。お会計もデイリーヤマザキのレジで行うので、Suicaなどを使うこともできる。今はお弁当を食べたばかりでお腹いっぱいなので、これは三角線に持ち込んであとでいただくことにした。
三角線で三角へ
ホームに戻ってしばらく待っていると、これから乗る三角線(みすみせん)のキハ40系気動車がやってきた。JR東海や東日本ではすでに引退した旧型の車両だが、今朝の指宿枕崎線といい、JR九州ではまだまだ第一線のようだ。ちなみに今回の車両は「キハ147」という機関換装車で、エンジンパワーが強化されている。
三角線は、宇土で鹿児島本線から分岐し、港町の三角へと至るローカル線。途中で接続する路線もなく、終点もただの行き止まりという「盲腸線」になっている。長さも25kmと短い。しかしそれでいて、沿線は海あり山ありで起伏のある楽しい路線となっているのも特徴だ。
宇土を出てしばらくは市街地を道路とともに抜けていくのだが、住吉をすぎると急に海沿いに出る。たぶん晴れていればもっときれいなオーシャンビューなのだろうけれど、相変わらずの天気で悲しい。
このあたりの車窓からは、長部田海床路という有名な観光スポットを遠くに望むこともできる。この写真で見てもなんのことやらという感じだと思うが、よく見ると海面に電柱が立ち並んでいるのが見て取れると思う。これはもともと有明海のノリ養殖などのために作られた「干潮時だけ現れる道」で、天気がいい日だと……
こんな幻想的な景色を見ることができるんだそう。み、見てみたい……。天候的にもスケジュール的にも今回は叶わないのだが、いつか天気が良くて時間のある時にまた来ようと心に誓ったのだった。
その後しばらく線路は内陸に入るのだが、網田を過ぎたあたりからふたたび海沿いに出て、今度は御輿来海岸(おこしきかいがん)をのぞむことができる。ここもまたけっこう有名な観光地らしく、天気のいい干潮の時間帯なら……
こんな景色を望むことができる場所らしい。しかし干潮でもないし曇天のこの日は、ただただグレーの海面を眺めるよりほかなかった。無念すぎる。まあそうは言っても、海沿いの線路をのんびり走っているだけでも十分楽しいのだけれど。
御輿来海岸を離れると、それまで海が主役だった車窓は一気に様子を変える。線路が内陸に進路を変え、山越えの区間に入るからだ。この路線、かなりアップテンポに景観が変わっていくので乗っていて全く飽きない。山の中では、トンネルでもないのにスマホが圏外になる場所もあるほどだった。
ちなみに、この道中には「石打ダム」という駅もある。さっきまで海を見ていたのにいきなりダムの駅、なんて路線もそうそうないだろう。そうこうしているうちに山を越え、列車は終点三角に到着する。全線乗っても1時間かからない短い路線ながら、海要素も山要素も濃密に詰まっていて満足度は非常に高かった。
三角駅周辺をサクッと散策
三角駅の駅舎は、このような南蛮風のおしゃれなもの。現在の場所に駅が作られた1903(明治36)年からずっと現役の、かなり長寿な駅舎となっている。とはいえ2011年にはリフォームを受けており、レトロながら嫌なボロさがなくて好印象。古いけどキレイな建物、というのはやっぱり居心地がいい。
駅前にはこのように、三角港の風景が広がっている。駅徒歩0分で港、という抜群すぎるアクセス。
もっとも、三角駅ができた時点では、「三角港」は駅前ではない別のところに位置していた。それが現在の場所に新港として移転してきたわけだが、時系列としては
- 旧港ができる→そこから離れたところに駅ができる→駅前に新港ができる
という感じで、要は港から離れた場所に駅ができた結果、港のほうが寄ってきてしまったということらしい。
駅の目の前には、こんな特徴的な形の建物が建っている。ソフトクリームというか、なんというか、とにかく何とも言えない見た目をしているが、これは三角港フェリーターミナルの待合室。「海のピラミッド」という名前がついているそうだ。
中に入るとこんな感じ。やっぱりユニークすぎて、一目見たら絶対に忘れることはないと思う。巻き貝をイメージして設計された建物だということだが、たしかに言われてみればそれっぽい。
ちなみに、この建物を設計したのは熊本市出身の建築家・葉祥栄氏。コンピューターのシミュレーションなどを駆使したデジタルデザインの先駆者とされている方で、他には…
↑こんな体育館や、
↑こんなガソリンスタンドも設計しているらしい。人生で1回くらいこんなスタンドで給油してみたい。
なお、現在の三角港の様子はこんな感じ。近代的できれいな感じに整備されているが、一方でたまに見える歴史のありそうな建物が、港としての風格を主張してもいる。天気がよければもっと遠くまで歩きたかったのだが、残念ながら雨がそこそこ強かったので今回は断念。
というわけでちょっと早く列車に戻ってきたので、せっかくなので先ほど買った「うと餅」をここで食べることにした。ひとくちサイズのあんころ餅が10個も入っている。心が落ち着く優しい甘さで、満足なおやつタイムだった。
次回予告
次回は鹿児島本線を一気に北上し、関門海峡を越えて山口県・徳山まで向かう予定。記事が書けたらリンクを追記します。
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※この記事内の情報は、2022年3月23日現在のものです。最新の情報については、各社のWebサイトなどで随時確認をお願いします。
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