今回は、電気自動車に強い中国の自動車メーカー「BYD」の日本参入を受けて、これから日本のクルマ市場はどんどん「スマホ市場化」していくのでは?という妄想についてあれこれ思ったことを書いていきたい。なおこの記事に書かれていることはただの一般市民の雑感なので、その点だけ初めにご了承いただければと思う。
【目次】
- 中国BYD、日本の乗用車市場に参入
- 忘れてはいけない、韓国ヒョンデの存在
- 中韓メーカーの追い上げで、クルマ市場が「スマホ市場化」する?
- 時代の変化に置いて行かれる日本メーカー
- 日本メーカーもこの機に進化できるといいね
中国BYD、日本の乗用車市場に参入
7月21日、中国の自動車メーカー「BYD」が日本に参入することが発表された。
BYDというメーカーはあまり馴染みがないかもしれないが、実はBYDの車自体は日本でも身近に走っている。ただ、これまでは乗用車ではなく、電動(EV)のバスを中心にしたラインナップとなっていたため、僕たち一般人の車選びの候補に挙がるようなメーカーではなかった。
ちなみに、日本におけるBYDのバスは大小4車種が用意されており、京都の「プリンセスラインバス」や岩手県交通、そして上野動物園のシャトルバスなどさまざまな事業者に採用されている。また、京都ではBYD製のタクシーも走っている。
そんなBYDが、このたびついに乗用車市場にも手を伸ばすことになったわけだ。市場参入にあたって用意した車種は3種類。全車種がEVとなっており、どれもなかなか力が入っているように見える。
まずはSUVの「ATTO 3」。無難ながらとてもかっこいいデザインに仕上がっており、アクの強すぎない、非常に万人受けするテイストの車ではないだろうか。車格としてはホンダの大人気SUV「ヴェゼル」などに近く、SUV人気の高い昨今の市場ではなかなか好意的に受け入れられそう。
次がコンパクトカータイプの「DOLPHIN」。こちらは「ATTO 3」に比べるとデザイン面での洗練度は今一歩な気もするが、個人的にこのダサ可愛い感じはなかなか嫌いではない。車格からもわかるようにこの車はシティコミューターであり、日産の軽EV「サクラ」あたりが直接的なライバルになりそうだ。販売価格は未定だが、競争力のある価格設定に期待したいところ。
最後がセダンの「SEAL」。ここまでの2車種がSUVとコンパクトという「売れ線」のラインを攻めているのに対し、こちらはブランドイメージを確立するためのフラッグシップ的な立ち位置のように思えるが、どうだろうか。セダンタイプのEVは現状テスラ一強なので、その中でどこまで競争力をつけていけるかが注目ポイントになりそうだ。
忘れてはいけない、韓国ヒョンデの存在
この話題で同時に触れておきたいのが、これまた今年になって日本再参入を果たしたヒョンデの存在。ヒョンデは日本で「アイオニック5」というSUVタイプのEVをすでに発売しており、最近では京都「MKタクシー」への採用も決定している。
僕自身、今年の5月に、原宿にあるヒョンデのショールームで実車に触れる機会があった。もっとも、貧乏学生の僕には今すぐEVを買うお金なんて全くないのだが、やっぱり気になる……という理由でふらっと立ち寄ったという感じだ。それにもかかわらず、嫌な顔ひとつせず応対してくださったスタッフの方々には本当に感謝しかない。
さて、写真で見てもかっこよくて魅力的なアイオニック5だが、やはり実車を目の前にするとその魅力度は凄まじいものがあった。全体のデザインから細部の質感に至るまで妥協は一切なく、10数年前のもっさりした韓国車の姿はもはやどこにもなかった。これにタクシーで乗れる京都府民は心底うらやましいと思う。
中韓メーカーの追い上げで、クルマ市場が「スマホ市場化」する?
さて、気になるのは、BYDやヒョンデといった中韓メーカーの参入が日本のクルマ市場に与える影響。Twitterなんかを見ていると否定的な感想も少なくない印象だが、個人的にはこうしたメーカーのEVは、日本市場にも大きな影響を与えるだけのポテンシャルを有していると思う。というのも、それは、ケータイ・スマホの市場がすでに通ってきた道にほかならないからだ。
かつての日本ではガラケーが大人気だったが、2009年の「iPhone 3GS」発売を機に、少しずつスマホ社会へと移行していった。そして、これに伴って起きた変化として「海外製ケータイのシェア拡大」というのがある。今ではみんな当たり前のようにiPhoneやGalaxyを使っているが、かつてはそうではなかったということだ。
このグラフはiPhone 3GS発売の前年、2008年のケータイのメーカー別出荷数シェアを表している。見てのとおり、上位6位以内に海外のメーカーはひとつも入っていない。この当時からサムスンやモトローラといった海外メーカーも日本でケータイを売っていたのだが、ガラケー市場というのはそれだけ日本メーカーが強い市場だったわけだ。
それが10年後、どうなったか。次のグラフは、2018年のメーカー別出荷数シェアを表している。
いかがだろうか。iPhoneを擁するAppleは、全ケータイ出荷台数の44%を占めるほどの大成長を遂げた。またスマホ市場においてはサムスン、ファーウェイという中韓メーカーもランキング上位に名を連ね、海外メーカーの累計シェアは6割を超えるまでになっている。
日本のケータイ市場では、これだけの急激な変化がわずか10年の間に起きた。今回の記事で言いたいのは、こうした変化がこれからのクルマ市場にもやって来るのでは、ということなのだ。
時代の変化に置いて行かれる日本メーカー
もちろん、それまでガラケーを作っていた国内メーカーだって、決して指をくわえて見ていたわけではなかった。ただ、スマホへのシフトが遅れてしまったばっかりに、完成度の高い端末を生み出すのが難しくなってしまっていたのだ。
中途半端な完成度のまま世に出てきてしまった国産スマホは、不具合が多すぎて発売日に発売中止になるという伝説を残した「T-01D」など、2010年代前半を中心に枚挙にいとまがない。「海外メーカーのほうが完成度高いじゃん」ということになってしまっていたわけだ。結局、ガラケー時代はあんなにブイブイ言っていた日本メーカーも、多くはスマホ時代への変化についていけず、衰退してしまったのだ。
翻って、クルマ市場はどうだろうか。今現在世界ではEVシフトの波がまさに来ている最中なわけだが、日本は今年になってようやくEVのラインナップが出揃い始めたところだ。クルマ界の王者であるトヨタがやっとこさ発売した「bZ4X」は、現時点ではまだあまり好調とはいえない販売状況となっている。日産・三菱の軽EV「サクラ/ekクロスEV」は販売が好調なようだが、これだって正直「やっとこさヒット作が出てきたか」という感じだ。日本車のEV化は正直あまり進んでいるとはいえず、少なくとも現時点では、海外メーカーがパイを奪う隙はまだ十分にある状況だ。
日本の乗用車市場においては、もう何十年も日本車が圧倒的に強い状態が続いてきた。外車というのは「趣味人が乗るもの」であって、ふつうの人は日本車だよね、というのが多くの人の共通認識だと思う。この状況は、日本メーカーが圧倒的に強く、一部のギークを除いてみんな国産ケータイを使っていたガラケー時代に重なるところがあると思う。
そして、そのケータイ市場がiPhoneやGalaxyの登場で激変したように、クルマ市場もテスラやBYD、ヒョンデの参入で激変する可能性がある。この記事で言いたいのはそういうことだ。
日本メーカーもこの機に進化できるといいね
しかし、これは何も「日本のメーカーにとって海外メーカーは脅威だから、なんとかして追い出さなくては!」とかそういう話ではもちろんない。今の日本メーカーには、BYDやヒョンデのEVをちゃんとライバルとして認識し、競争をして自社EVの製品力を上げていくことが求められているのだと、個人的には思っている。
次のグラフは、先ほども引用したスマホのメーカー別出荷数シェア、その2021年のデータである。
やはり1位のAppleは圧倒的だが、2018年と比べると5%近くシェアを落としている。また、Apple含む海外メーカーが占める割合の合計も、2018年と大して変わっていない。一方で、かつては衰退する一方かと思われた日本メーカーも、現在では、そのシェアは下げ止まっていることがわかる。
なぜ日本のスマホはシェア低下を食い止め、衰退に歯止めをかけることができたのか。それは各社が海外スマホを明確にライバルとして見据え、魅力的なスマホを生み出したからに他ならない。
代表的なのは、2017年に登場したシャープの「AQUOS sense」シリーズだろう。これは中国メーカーのミドルレンジスマホをライバルとして、国内メーカー製ながら高いコスパを実現して大人気になったシリーズだ。一時は撤退すら噂されるような状況だったシャープは、このsenseシリーズの大ヒットによって持ち直すことができたのだ。最近ではハイエンドの「AQUOS R7」で極めて優秀なカメラを実現するなど、メーカー全体としてますます元気を取り戻してきている。
また、iPhoneやGalaxyなどの海外製ハイエンドに押し負ける一方だったXperiaは、2019年の「Xperia 1」以降、逆にライバルとの差別化に徹することで収益を拡大してきている。自然な映りをとことん追求したカメラをはじめ、他社のスマホにはない独自の魅力がファンを強く引き付けているのだ。また長年ラインナップがなかった廉価グレードにもついに参入し、「Xperia Ace」シリーズは出荷台数の増加に大きく貢献している。
このように、日本のスマホメーカーは海外勢をちゃんとライバルとして意識し、競争をして自社製品の製品力を磨いていくことで、今では少しずつ活力を取り戻すことができているのだ。
自動車においても、同じことが言えると思う。海外メーカーが日本市場で攻勢を強める中、日本のメーカーが生き残っていくために必要なことは、「海外メーカーをちゃんとライバルとして認識し、競争する」これに尽きると思うのだ。
現在の日本市場において、ヒョンデやBYDに注がれる目線はまだ冷ややかだ。しかし、だからといって国内メーカーがこれらを下に見て油断するようなことがあれば、たちまち足元をすくわれる可能性は否めないだろう。海外勢を対等な競合相手として認識して、競争の中で製品を進化させていくこと。それこそが、これからも日本車が「安定な選択肢」であり続けるために必要なことではないだろうか。
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